雑司ヶ谷幼稚園
園長 阿部 洋子 先生
「子ども一人ひとりの“今”を見つめる」
100年の伝統を受け継ぎ、これからの幼児教育へ
――このたび、雑司ヶ谷幼稚園の園長に就任されました阿部先生。
まず、こ自身のご経歴についてお聞かせください。
「はい。これまで跡見学園女子大学・大学院で、幼児教育や発達、家族心理学、家族療法などに関わってまいりました。大学では教授、教務部長などを務め、心理教育相談所での相談活動にも携わってきました。また、公立小学校の巡回相談員や就学前相談、親教育プログラムなどにも関わる機会があり、幼児期から学齢期へと子どもたちが成長していく過程を、さまざまな立場から見てきました。
そうした経験を、これからは一つの幼稚園という場で、子どもたちの日々の育ちに直接生かしていきたいと思っています。」
――長く教育・発達の研究や相談に携わってこられたからこそ、幼稚園の現場に対する思いもおありになるのではないでしょうか。
「研究や相談の場では、子どもの発達について客観的に考えることができます。一方、幼稚園の現場では、一人ひとりの子どもが毎日、目の前で成長していきます。昨日できなかったことが今日はできるようになったり、思いがけない発想を見せてくれたりします。幼児教育で大切なのは、発達の「一般的な姿」だけを見るのではなく、その子自身の変化を丁寧に見つめることだと思っています。「この子は今、何に興味を持っているのか」「何を感じているのか」「どんなことに挑戦しようとしているのか」。そうした一人ひとりの「今」を大切にしていきたいと考えています。」
――雑司ヶ谷幼稚園は100年を超える歴史を持つ幼稚園です。園長として、この伝統をどのように受け継いでいきたいとお考えですか。
「100年以上にわたって、この雑司ヶ谷の地で幼児教育を続けてきたことは、本当に大きな財産だと思います。長い歴史の中で、たくさんの子どもたちがこの園で過ごし、卒園後も園を訪れてくれる方がいるということは、この幼稚園が子どもたちにとって大切な場所であったということの表れだと思います。伝統というと、「昔から変えないもの」と考えがちですが、私はそうではないと思っています。大切なものを受け継ぎながら、その時代の子どもたちに必要な教育を考えていくこと。それが、本当の意味で伝統を守ることではないでしょうか。」
――雑司ヶ谷幼稚園の教育の大きな特色について、どのようにお考えでしょうか。
「一番大切にしているのは、子ども一人ひとりの自主性と個性です。大人が何でも先に決めて、子どもをその通りに動かすのではなく、子ども自身が「やってみたい」と思う気持ちを尊重したいと思っています。そして、もう一つ大切にしているのが、「本物に触れる」ということです。園庭の植物や生き物、土や風などの自然に触れること。文化や芸術など、本物に出会うこと。そうした直接的な体験は、子どもたちの認知能力だけでなく、感性や感受性を育てるうえでも大切です。」
――今の子どもたちは、以前と比べて情報に触れる機会が非常に増えています。
「そうですね。情報そのものは、とても便利で大切なものです。ただ、幼児期には、情報を得ること以上に「自分自身で体験すること」が重要だと思います。例えば、花の写真を見ることと、実際に花に触れて、匂いを感じ、その変化を毎日観察することは同じではありません。「今日は昨日と違うね」「つぼみが開いたね」「この虫はどこから来たのかな」そうした小さな気づきが、子どもの好奇心や考える力につながっていきます。便利な時代だからこそ、幼児期には五感を使った「生の体験」を大切にしたいと思っています。」
――自然環境も雑司ヶ谷幼稚園の魅力ですね。
「はい。園庭は決して大きくありませんが、子どもたちが十分に遊べる環境があります。季節ごとに花が咲き、生き物が現れ、土の庭で子どもたちが走り回る。そうした日常の中に、幼児教育にとって大切なものがたくさんあります。自然は、子どもに答えを教えてくれるわけではありません。だからこそ、「なぜだろう」「どうしてだろう」と、自分で考えるきっかけになります。」
――今後、雑司ヶ谷幼稚園で特に大切にしていきたい教育はありますか。
「これまで大切にしてきた教育をしっかり受け継ぎながら、さらに「子どもが自分から動き出す環境」を考えていきたいと思っています。子どもが自分で選び、考え、試してみる。そして、失敗したとしても、そこからまた考えてみる。そうした経験の積み重ねが、自分で考えて行動する力につながっていくのだと思います。また、異年齢の子どもたちが関わることも大切です。年齢の違う子ども同士だからこそ生まれる学びがあります。小さな子を思いやる経験もあれば、大きな子を見て「自分もやってみたい」と思う経験もあります。そうした人との関わりを通して、社会性や自尊感情を育てていきたいと考えています。」
――豊島区の幼児教育について、今後期待されることはありますか。
「幼稚園には、それぞれの歴史や教育理念、特色があります。だからこそ、園同士がそれぞれの良さを認めながら交流し、情報を共有していくことが大切だと思います。また、幼児教育は幼稚園だけで完結するものではありません。家庭、地域、小学校、そして行政など、子どもを取り巻くさまざまな人たちがつながることで、より豊かな育ちを支えることができます。豊島区には多様な幼児教育の場がありますので、それぞれの特色を生かしながら、地域全体で子どもたちを育てていく環境がさらに充実していけばと思います。」
――最後に、保護者の皆様に伝えたいことをお願いします。
「子どもの成長は、一人ひとり違います。早くできるようになる子もいれば、時間をかけてゆっくりと育っていく子もいます。大切なのは、周りの子どもと比べることではなく、その子自身の小さな変化に気づいてあげることではないでしょうか。幼児期は、これから長い人生を歩んでいくための土台をつくる時期です。知識をたくさん身につけることだけではなく、人と関わることの楽しさ、自分で考えることの面白さ、失敗してももう一度やってみようと思える気持ち。そうした「生きる力」の根っこを、幼稚園とご家庭が一緒になって育てていけたらと思っています。
雑司ヶ谷幼稚園がこれからも、子どもたちにとって「また来たい」「ここで遊びたい」と思える場所であり続けられるよう、教職員と力を合わせて歩んでまいります。100年を超える歴史を大切にしながら、これからの100年につながる幼児教育を考えていきたいと思います。」
ーーー阿部先生。本日はありがとうございました。





